先日、あるアーティストが「私の曲ってカスですよね…」と言いました。
『カス』という表現は褒められたものではありませんが、気持ちはよく分かります。

6~7年前、クラウドファンディングが流行りだした頃、多くのシンガー・ソングライターが、CDリリースやMV制作をファンディングし、200%、300%を達成しました。
新曲を録音し、MVを創った残りのお金で、渋谷スクランブルの大型ビジョンに放映しました。
でも全くヒットしなかったし、メジャーレーベルから声すらかかりませんでした。
なぜでしょうか?

その曲に、人の心を動かす力がなかったからです。

興味がなかろうが何だろうが、信号を待つ間に、確実に200~300万の人がMVを観て曲を聴いたはずです。
もし気になるメロディーが聴こえてきたら、引っかかる歌詞があったら、絶対に反応があります。

真剣に路上ライブをやり続けると気づきます。
ライブハウスのお客様は優しいのでどんな曲でも拍手をしてくれますが、路上はそうではありません。
立ち止まってもらうために、変な恰好をしたり、叫んだり、デカいスピーカーを使ったりしますが、そんなフェイクではせいぜい酔っ払いが寄ってくるだけです。
『生きて生きて生きて生きて』と歌ったアーティストも、下北の路上で悔しい経験を積み重ね、自分がすべきことは良い曲を書くことしかないと確信したのだと思います。

『恋するフォーチューンクッキー』は、単純に良い曲だと思います。
AKB48は、上手い仕掛けと圧倒的な物量で一気に攻め込んできました。
しかしそれだけではありません。
曲が良くないと、子供が歌い、カラオケで歌われなかったはずです。
全国民を味方につけたAKBブームは、秋元康氏のソングライティングがベースになっていると思います。

楽曲が良いだけではなかなかヒットしませんが、曲が良くないと絶対にヒットしません。
自分の曲を『カス』と言ったアーティストは、自分がなぜ人気が出ないのか必死で考え、様々なアプローチをし、それでもダメ、やっとこの真理に気づいたのだと思います。

ここまでが、メジャーになるPahse-1です。
ビジュアルに凝ってみたり、朝から晩まで配信やってみたり、創曲以外に体力を使ってPahse-2に進めない(進まない)アマチュアアーティストは少なくありません。
もちろん『良い曲を書きたい』とは思っているのでしょう。
しかし、多くの人を感動させる楽曲を創ることは、簡単ではありません。
他のことをやっている時間はないはずです。


彼女が早めに本質に気づいてくれて嬉しく思います。
これからが苦しい。
名曲が生まれるまでの間、どうやってアーティストを支えるかがマネージメントの力量です。
でも、『カス』はなぁ…。
この語彙の無さをどうにかしないと、人が感動する詞は書けないかもしれません。